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大阪地方裁判所 平成8年(行ウ)80号 判決 1997年5月14日

原告

西浦康邦

被告

大阪市固定資産評価審査委員会

右代表者委員長

大西正雄

右訴訟代理人弁護士

田中義則

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告が平成六年五月九日付けで被告に対してした別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の原告の持分に係る平成六年度の固定資産税の固定資産課税台帳の登録事項に関する審査の申出について、被告が平成八年三月一日付けでした審査申出を棄却する旨の決定を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同じ。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、平成六年一月一日の時点において、大阪市内に所在する本件土地の共有持分三九一四七六分の二六六六を有している。

2  大阪市長は、平成六年五月二日付けで、原告に対し、本件土地の原告の共有持分(以下「原告持分」という。)について、地方税法(以下「法」という。)三四一条六号に定める基準年度である平成六年度の固定資産課税台帳に登録すべき価格(以下「本件登録価格」という。)を一四〇八万七〇〇〇円(以下「本件決定額」という。)と決定し、右台帳に登録した。

3  原告は、平成六年五月九日付けで、被告に対し、本件決定額について審査の申出をした。

4  被告は、平成八年三月一日付けで、右3の審査申出を棄却する旨の決定(以下「本件審査決定」という。)をし、右決定書謄本は同月六日原告に送付された。

5  しかしながら、本件決定額は、平成六年度の固定資産税の賦課期日である平成六年一月一日時点の原告持分の適正な時価を上回るもので、本件登録価格として過大であって違法である。

6  よって、原告は、被告に対し、法四三四条に基づいて、本件審査決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし4は認め、同5は否認する。

三  被告の主張

本件決定額(一四〇八万七〇〇〇円)は、以下のとおり、本件登録価格として適法である。

1(一)  法は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続は、自治大臣がこれを固定資産評価基準(以下「評価基準」という。)として定めて告示し(法三八八条一項)、市町村長は、評価基準によって固定資産の価格を決定し(法四〇三条一項)、これを固定資産課税台帳に登録しなければならないと規定している(法四一一条一項)。

大阪市長は、平成六年度の評価替えにおいて、評価基準(昭和三八年一二月二五日自治省告示第一五八号、乙第一号証)に基づき、指示平均価額制度を設けて各市町村の評価の均衡を図るための調整をした後(評価基準第一章第三節三)、各市町村においてすべての街路に路線価を付設し、付設した路線価を基に各筆の宅地の条件に基づき画地計算を行ったうえで、各筆の宅地の価格を求める方法を採り、本件土地についてもこの方法で評価を実施した。

(二)  実際の評価に当たっては、評価基準の内容をより明確にすることにより、同基準の統一的な運用、全国的な評価の均衡化及び適正化を図ることにより租税負担の公平を確保する必要があるところ、価格調査基準日については、大阪市長は、当初、自治事務次官通達「『固定資産評価基準の取扱いについて』の依命通達の一部改正について」(平成四年一月二二日自治固第三号、以下「次官通達」という。)及び自治省税務局長通達「土地及び家屋に係る平成六年度(基準年度)の評価の運営について」(平成四年五月二二日自治評第六号、以下「局長通達」という。)により、宅地については地価公示価格の七割程度を目途に、賦課期日である平成六年一月一日から一年半前の平成四年七月一日を価格調査基準日として評価することにし、更に、自治省税務局資産評価室長通達「平成六年度評価替え(土地)に伴う取扱いについて」(平成四年一一月二六日自治評第二八号、以下「室長通達」という。)により、地価の下落傾向に鑑み、平成五年一月一日時点における地価動向をも勘案し、地価変動に伴う修正を行うこととした。

(三)  大阪市長は、右(二)の各通達に従い、次のとおり、原告持分についての本件登録価格を一四〇八万七〇〇〇円と決定した。すなわち、本件土地の近隣に所在する大阪府地価調査基準地(国土利用計画法施行令九条一項に基づく基準地)である中央(府)五―五の平成四年七月一日現在の一平方メートル当たり標準価格五三五万円を基礎にして、平成五年一月一日までの時点修正を一四パーセントの減額とみて、0.86を乗じた。更に、地価公示価格の七割程度を目標とすることから、これに0.7を乗じた三二二万円を一平方メートル当たり路線価とし、これに奥行価格逓減率八四パーセント(評価基準別表第三参照)、一部建築線指定による建築制限があることによる補正率九五パーセントをそれぞれ乗じて、本件土地の一平方メートル当たり評価額を二五六万九五六〇円と算出し、これに本件土地の面積805.05平方メートルを乗じて本件土地の評価額を二〇億六八六二万四〇〇〇円(一〇〇〇円未満切り捨て)と算定し、これに原告の持分三九一四七六分の二六六六を乗じて、原告持分の登録価格を一四〇八万七〇〇〇円(本件決定額)と決定した。

(四)  評価替えの手続は、評価の対象が膨大で、各市町村において大量の事務作業を必要とし、また、各市町村間の調整手続も要することから、これには相当長期間を要する。一方、法は、市町村長は賦課期日の約二か月後の二月末日までに価格の決定を行うべきものと定めている(法四一〇条)が、賦課期日における適正な時価をあらかじめ想定することも困難であるし、賦課期日までに予想される価格変動を折り込んで個々の土地について価格評定事務を行うことも不可能である。そのため、土地の評価については、賦課期日から右手続に要する期間を遡った時点を価格調査基準日として評価することは合理的な方法であって、このことは法も当然予定している。そこで、従前から当該年度の賦課期日から一年半を遡った前々年の七月一日を価格調査基準日として評価する方法がとられてきた。

(五)  前記各通達は、評価基準の内容をより明確にするとともに、その運用に際しての必要事項を示し、評価基準の解釈運用の指針となるものであるから、評価基準と一体のものとして取り扱われるべきものであり、法的拘束力を有する。したがって、評価基準及び右各通達に従って算出された本件決定額は、本件登録価格として適法である。

2  仮に、本件決定額が平成六年一月一日の原告持分の時価を上回れば登録価格として違法であるとの解釈が正しいとしても、前記のとおり、本件決定額は、平成五年一月一日時点における本件土地の評価額に七割を乗じたものであるところ、本件土地の近隣に所在する地価公示法二条一項に基づく標準地である中央区五―三二の地点の平成五年一月一日時点(以下「本件地価公示地」という。)の価格は一平方メートル当たり四一五万円、平成六年一月一日時点の価格は一平方メートル当たり三〇八万円で、その間の下落率は25.78パーセントであるが、本件土地の右期間における下落率もこれと同一ということができるから、賦課期日である平成六年一月一日時点の本件土地の時価は、平成五年一月一日の右価格の七割を乗じて減額された本件決定額を上回ることになり、結局、本件決定額は本件登録価格として適法である。

3  仮に、本件土地の平成六年一月一日時点における時価が原告主張のとおり二〇億三七二五万三〇〇〇円であったとしても、本件決定額との差は極めて微細である。

さらに、平成六年度の土地の評価替えについては、平成六年ないし平成八年度までの三年度間に限り、評価の上昇割合の高い宅地等に係る暫定的な課税標準の特例措置が導入され、課税標準額の圧縮及び右措置適用後の評価の上昇割合に応じた負担調整による税負担の緩和がなされ、固定資産税の負担の急激な増加を極力抑える措置が講じられている。したがって、登録価格がそのまま課税基準となるものではなく、本件土地の平成六年一月一日時点における時価が原告主張のとおりであったとしても、固定資産税及び都市計画税の具体的な税額においては本件決定額に係る税額と何ら変動がない。

したがって、この程度の評価誤差をもって本件審査決定を取消す違法があるということはできない。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告の主張1の(一)ないし(三)は認め、(四)(五)は争う。本件登録価格は、賦課期日である平成六年一月一日における原告持分の時価である。被告は、法の規定に反して、賦課期日の一年前である平成五年一月一日を価格評価基準日として本件決定をした。室長通達は、評価基準ではなく、課税当局内部における運用の基準を示すに過ぎず、何らの法的拘束力も有しない。特に、平成六年度の評価替え当時においては地価が下落傾向にあり、このような経済情勢において賦課期日よりも前の日を評価の基準日にすることは納税者に著しく不利益を与えるものであり、仮に、平成六年一月一日を基準日とすると評価の決定が遅れるのであれば、評価の決定を延期する等所要の措置を講じれば足りる。

2  同2は否認する。平成六年一月一日における本件土地の時価は、二〇億三七二五万三〇〇〇円であり、原告持分の時価は、一三八七万三九四四円であり、本件決定額を下回る。すなわち、本件地価公示地である大阪中央五―三二の平成六年一月一日時点の単位面積当たりの標準価格三〇八万円に、地域要因による補正1.04、前面道路による補正0.99、奥行価格逓減率0.84、建築線指定による建築制限0.95をそれぞれ乗じて求められる二五三万〇五九二円が本件土地の一平方メートル当たりの価格であり、これに本件土地の面積805.05平方メートルを乗じた二〇億三七二五万三〇〇〇円が本件土地の賦課期日における時価となる。

第三  証拠

本件訴訟記録中の「書証目録」記載のとおり。

理由

一  請求原因1ないし4の事実及び被告の主張1の(一)ないし(三)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  基準年度における土地の登録価格の意義について

1 法は、土地に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準を、当該土地の基準年度に係る賦課期日における価格で土地課税台帳又は土地補充課税台帳に登録されたものとし(法三四九条一項)、固定資産税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日とする(法三五九条)旨規定し、更に、右の「価格」とは適正な時価をいうものと定めている(法三四一条五号)。したがって、土地に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準は、法において、賦課期日、すなわち、当該年度の一月一日の時点における適正な時価であると定められていることは明らかであって、法その他の法律における特段の定め、あるいは法の改正によらない限り、この法の内容自体を、課税庁側において評価事務に要する日時や地価の動向などの経済情勢等を考慮して変更することはできないというべきである。

2 法においては、自治大臣が、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続、すなわち評価基準を定めて告示し(法三八八条)、市町村長は、評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならないとされている(法四〇三条一項)。しかし、評価の基準日自体は、右のように法において賦課期日と定められているから、自治大臣は、これを変更する内容の評価基準を定めることができないのは当然であって、賦課期日における適正な時価を算定するための評価方法及びその手続を定め得るにすぎないのである。自治大臣が定めた評価基準の内容が、賦課期日の適正な時価の評価方法として不合理、不適切な場合には、評価基準の設定自体が法の委任の趣旨を逸脱した違法なものというべきである。

3 ところで、右の適正な時価とは、その文言からも明らかなように、正常な条件において成立する取引価格をいうものと解されるが、わが国においては、土地の取引価格は上昇したり、あるいは逆に下降したりする可能性のある不安定なものであり、取引価格を実際に調査して、その結果を基にして価格の評価をするに当たっては、その調査時点をどの時点にするかが極めて重要な事柄である。特に登録価格決定のための価格調査基準日は納税者の権利義務に直接関係するものである。そうすると、前記のとおりの法の定めからすると、法は、時価の評価のための価格調査基準日は、基準年度の賦課期日と同時点か少なくともできる限りこれに近接した時点であることを要する趣旨と解さざるを得ない。

4  以上のような視点から被告の主張を検討すると、被告の主張によれば、本件決定価格は、自治大臣によって定められて公示された評価基準(昭和三八年一二月二五日自治省告示第一五八号)、次官通達、局長通達及び室長通達に基づいて決定されたというのであるが、そもそも、右の評価基準自体に価格調査基準日についての規定はなく、局長通達及び室長通達において、従来は賦課期日の一年半前を価格調査基準日として実際の評価事務を行っていたことを前提とした記載、平成六年度の評価替えに当たっては、地価公示法に基づく公示価額の七割程度を目途に、賦課期日の平成六年一月一日から一年半前の平成四年七月一日を価格調査基準日とし、さらに、地価の下落傾向に鑑みるとして、平成五年一月一日時点における地価動向をも勘案し、地価変動に伴う修正を行うとの処理方針の記載があり、被告の主張によれば、これらに基づいて、評価事務を行うことが決定され、本件土地についてもそのように評価事務が行われたというのである。そして、被告は、以上のような価格調査基準日についての処理は、右各通達によるもので、それらは評価基準と一体となるものであることを理由に、かような評価事務による登録価格の決定も適法であると主張する。

しかしながら、評価基準と右各通達とは法的に同視できないのみならず、法の趣旨は前記のとおりであるから、右の処理における価格調査基準日は、賦課期日の一年前の平成五年一月一日としても、賦課期日からあまりにもかけ離れた時点であって、特に右時点から平成六年一月までの我が国における地価下落傾向(これは当裁判所に顕著である。)に鑑みても、かような時点を価格調査基準日として評価することは、それが仮に評価基準に定められたとしても、法の趣旨を著しく逸脱した違法なものというべきである。また、地価公示価格の七割を目途にするとの処理方針自体も直接の法律上の根拠はないことである。これらの点に関する被告の主張1は採用できない。

5  更に、被告は、評価替えの手続には大量の事務作業等を要することから相当の期間を必要とするものであって、市町村長は賦課期日の約二か月後の二月末日までに価格の決定を行うべきものとされていることから(法四〇一条)、賦課期日を価格調査基準日として登録価格を決定することは不可能であり、あらかじめ賦課期日までに予想される価格変動を織り込んで価格評定事務を行うことも困難であるとも主張する。

確かに、土地の評価をするに際しては、評価基準に基づき各筆の評価を行い、更に都道府県間及び各都道府県内の市町村間の評価の均衡を図るための調整を行う等の一連の事務手続を考慮すると、賦課期日の時点を価格調査基準日として二月末日までに価格の決定を行うことは困難ではあるけれども、賦課期日以前のできる限りこれに近接した時点を価格調査基準日として土地価格を鑑定評価し、これに賦課期日までの価格変動要因を想定して賦課期日における土地の価格を算出することは当然に可能なことであり、このような方法により登録価格を決定することをこそ法は要求しているものと解される。

もとより、将来の地価の変動を確実に予測することに困難な面があることは否定し難いし、まして個々の土地についてそのような予測を正確に行うことには困難を伴うが、登録価格を決定するに当たっては、それが賦課期日における客観的時価を上回ることのないよう、評価事務手続に要する期間を考慮しつつ、できる限り賦課期日に近接して価格調査時点を設定し、とりわけ地価の下落局面にあっては、価格調査基準日から賦課期日までの地価の予想下落率を幾分大きめに見積り、あるいは予め土地の価格自体を減額するなどの方法により登録価格を控え目に算出することは十分に可能と考えられる(甲第一九号証の一ないし三、第二〇号証、乙第九号証によれば、平成九年度の固定資産税の評価替えにあっては、賦課期日より一年前の平成八年一月一日を価格調査基準日とした上で、価格調査基準日以降も地価が下落している地域においては、同年七月一日時点の価格である都道府県地価調査の結果を活用して評価額の修正を行うことができるものとされているのであり、これによっても、少なくとも賦課期日の半年前までの現実の地価変動状況を考慮することが実際の手続上も可能であると認められる。)。

6  そもそも、土地の価格自体は観念的には一義的に定まるべきものとはいえるが、このような方法で賦課期日の時価を算出すると、現実の評価においては数値の取り方等によりある程度の範囲内において異なった数値が算出される余地も十分にあり得る。しかし、登録価格が賦課期日における時価を上回らない限り、もとより納税者の権利を害することなく、その関係で登録価格の決定が違法となることはないし、また、登録価格が賦課期日の時価を下回った場合でも、その乖離が極端なものでなければ課税の謙抑性の観点から是認されるものというべきである。

7  以上のとおり、本件決定額は、法の趣旨を逸脱した違法な評価方法により算出されたものである。

三  ところで、本件訴訟は、固定資産税を賦課した市町村長を相手方とする取消訴訟とは別に、固定資産課税台帳の登録価格の適否の争いについてのみ、裁決庁である被告(固定資産評価審査委員会)に対して、納税者である原告がその審査決定の取消訴訟の形で争う訴訟であって(法四三四条)、争点となり得るのは、原告持分の本件登録価格が法で定められた賦課期日における時価を上回る違法があるかどうかの点のみであると解される(なお、右の時価を下回る違法がある場合もあるが、行政事件訴訟法一〇条一項により納税者はその取消しを求め得ない。また、原告は、固定資産評価審査委員会の裁決手続における固有の瑕疵については主張していない。)。このように、本件訴訟においては、原告持分の客観的な価格のみが問題なのであるから、納税額との関係は問わないし(したがって、被告の主張3は採用できない。)、市町村長の価格決定の際の評価方法に法の趣旨を逸脱した違法な点があっても、それ自体は本件審査決定の取消事由にはならないというべきである。そして、被告・原告のいずれにおいても、登録価格の適否については、評価基準や自治省の通達等による実際の登録価格決定に当たってされた評価方法とは別に、賦課期日の時価を算定するための他の評価方法も主張・立証することができ、裁判所は、審理の結果、より適切合理的な最良の評価方法による価格評価を採用して賦課期日における時価を認定し、これと登録価格を比較して登録価格が上回る場合には、審査決定のその部分を取消すべきことになる。被告の主張2とこれについての原告の反論がこの点に係る。

四  本件土地の賦課期日における客観的時価について

1  本件決定額の算出根拠は、前記被告の主張1(三)のとおりであり、これは前記各通達に従って算出されたもので、本件土地周辺における平成四年七月一日から平成五年一月一日までの時点修正の一四パーセントの減額は不動産鑑定士の評価に基づくものである(甲第一三号証)が、原告は、これに対して、自らの作成にかかる鑑定評価書(甲第二八号証)に基づいて、本件地価公示地である大阪中央五―三二(博労町一丁目一三番(一―四―八))の平成六年一月一日時点の単位面積(一平方メートル、以下同じ。)当たりの地価公示価格三〇八万円を基礎に、賦課期日における本件土地の時価は二〇億三七二五万三〇〇〇円であると主張する。なお、本件土地の評価に当たっての前面道路による補正率及び奥行価格低減率については本件決定と原告による鑑定評価との間に差異はない。

2  そこで、平成六年一月一日の原告持分の時価について検討すると、前記一の争いがない事実、甲第一二号証、第二八号証、乙第一一号証の一、二、第一二、第一三号証及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一)  本件土地は、幅員7.8メートルの市道に面し、地下鉄堺筋本町駅から三五〇メートルの距離にある中層の店舗、事務所ビルが建ち並ぶ商業地域である。本件決定額の基準地である大阪中央(府)五―五(北久宝町一丁目一二番三(一―四―八)、以下「決定基準地」という。)は、本件土地と同一市道に面し、本件土地から約一〇メートルの至近距離にあって、本件土地とはほぼ同一の地域条件であるといえる。

一方、本件地価公示地は、本件土地よりも二筋南側を走る幅員8.0メートルの市道に面しており、堺筋本町駅から五八〇メートルの距離にある中層の事務所等からなる商業地域であって、本件土地とは若干地域条件を異にしており、本件土地の評価に当たっては、決定基準地を基準とする法がより精度が高く適切であるといえる。

(二)  本件地価公示地の平成五年一月一日時点における単位面積当たりの地価公示価格は四一五万円で、平成六年一月一日時点のそれは前記のとおり三〇八万円であるから、その下落率は25.78パーセントで、これは大阪市中央区内の商業地域の右期間の地価の下落率と概ね同程度である。そして、同地域の右期間における地価の下落率が三〇パーセントを超えた地点はない。

(三)  本件地価公示地の価格は、地価公示制度に基づく毎年一月一日時点の価格であるのに対し、決定基準地の価格は国土利用計画法施行令九条一項に基づく地価評価制度に基づく毎年七月一日時点の価格であり、賦課期日の価格は示されていない。しかし、決定基準地の平成五年七月一日における単位面積当たりの基準地価格は四〇六万円、平成六年七月一日におけるそれは二八二万円であり、一年間の下落率は30.54パーセントであるところ、大阪市中央区内の商業地域における地価の下落率は、概ね右の一年間で二五ないし三〇パーセント程度であるが、その全域において平成五年七月一日から平成六年一月一日までの半年間の下落率よりも平成六年一月一日から同年七月一日までの半年間の下落率の方が大きい。

3  右によれば、決定基準地における平成六年一月一日時点の価格は一平方メートル当たり三三八万三六六七円(平成五年七月一日から平成六年一月一日までと同日から同年七月一日までの両期間における下落率が同一すなわち16.66パーセントずつ下落したと仮定した場合の平成六年一月一日時点の価格として算出される額)を下回ることはないと推認され、さらに、これに基づいて、平成六年一月一日時点における本件土地の一平方メートル当たりの時価は二七〇万〇一六六円(右の三三八万三六六七円に奥行補正0.84及び建築後退補正0.95を乗じた額)を下回ることはないということになる。

以上認定の事実のほか、原告は、請求原因3の審査申出の際には、本件訴訟における主張と異なり、本件土地の平成六年一月一日時点の時価を本件地価公示地の平成六年一月一日時点の価格三〇八万円に奥行補正0.84及び建築後退補正0.95を乗じた一平方メートル当たり二四五万七八四〇円と主張し、地域要因による補正及び前面道路による補正については何ら言及していない(甲第七号証)ことや、本件土地と本件地価公示地との地域条件の差異に照らすと、前掲甲第二八号証における地域要因による補正率1.04及び前面道路による補正率0.99の各数値はそのまま採用することはできない。

したがって、平成六年一月一日時点における原告持分の客観的時価は、一四八〇万三六三二円(二七〇万〇一六六円に本件土地の面積及び原告の持分を乗じた額)を下回ることはないものと認定することができ、結局、本件決定額を上回るものというべきである。

五  以上のとおりであって、本件決定額は、前記のとおり、法の趣旨を逸脱した違法な評価方法により算出されたものではあるが、結果的に、賦課期日における原告持分の客観的時価を上回るものではないから、本件決定は、原告との関係で違法となることはなく、これを是認した本件審査決定は適法である。

よって、原告の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官八木良一 裁判官加藤正男 裁判官西川篤志)

別紙<省略>

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